“寄生虫博士”

藤田紘一郎先生


1 『フィラリア―難病根絶に賭けた人間の記録』 小林照幸(TBSブリタニカ)
わたしはもともと整形外科をやっておりました。柔道部に所属していたのですが、たまたま熱帯病調査団の団長とトイレで会ったのが運のつき、荷物もちとして奄美大島や沖縄の波照間島に行くことになりまして・・・。そこでびっくりしたのが、フィラリア。陰嚢が巨大になって。フィラリアの患者を刺した蚊に刺されると、うつるんですよ。鹿児島の住民の5%がかかっていた。これは、わたしが同行した団長さんたちのフィラリア根絶の記録。一生懸命蚊をなくして患者さんを治療して、1978年にフィラリアを根絶しました。下っ端だったので名前は出ておりませんが、わたしも参加しています。こういう道に入ったきっかけです。それから東大の伝染病研究所に入って、寄生虫だけでなく、細菌、ウィルスなど微生物をいろいろ研究した。目は熱帯のほうに向きました。三井物産の嘱託医として6ヶ月間インドネシアのカリマンタン島にいたときに、アトピー、喘息、花粉症がないということがわかって。よく調べたら、みんなが回虫にかかっていた。日本でも、アトピーや喘息は40年前にはなかったし・・・。ということで、回虫がアレルギーを抑えるという研究に入りました。


2 『極限の民族』 本多勝一(朝日新聞出版)
そのうちに、文明っていうのはどういう意味を持つんだろうかと考え出した。回虫は追い出したし、きれいな快適な環境になってきたけど、じゃあ幸福になってきたかなと思ったとき、極限の民族はどうなっているんだろうと考えるようになったんです。そんなときにこの本を読んで感銘を受けた。わたしもやってやろうってことで、順天堂医学部の熱帯医学研究会の若者達をつれて、カリマンタン島の奥地に何度かいきました。ダヤク族といって、全長200mくらいある大きな長屋(アパート)に一族みんなで住んでいる。しかしよくよく聞いてみたら、族長の息子はオーストラリアに留学していて、英語もしゃべれる。族長はビデオ持っているし(笑)。こんなに苦労してここまで来たのに、すごく文明社会のことを考えている。また、ダヤク族は首狩人種といわれていますが、本当はみんな優しい人たちで、首狩をするとアパートに住めなくなるんです。でも、年をとった人から死んでもらうんです。自分達で殺せないからいちおう戦争したふりして他の民族に殺してもらう。みんなも納得しているんですね、年取って邪魔になったら・・・って。それはすごく感動的だった。それ考えたら、日本は、修学旅行でもうわべだけきれいなところ見せて、うんちは汚い、ゴキブリは不快だから殺せなんてやっているわけです。命は大切だといいながらね。そういうことに対して、非常に憤慨を持っています。


3 『糞袋』 藤田雅矢(新潮社)
この本には、江戸時代、うんちが一番の商品価値があったと、うんちを売っている人たちのことを面白おかしく書いています。うんちとか、ばい菌とか、世の中でいいことをしてるんだと、なんとか知らせようということで。これ書いた人は、京大の農学部出身です。実際、江戸時代は大家さんが『家賃払わなくても、うんちしてくれればいいから』って。そのうんちがものすごいいい値段になったわけです。徳川家康が関東ローム層というやせた土地に40万人の兵隊連れてきて、当時は鎖国中だったので、自分たちで食料などまかなうために、うんちを肥料にして土地を耕して、それから江戸の100万都市が出来ていったんですね。うんちはすごく高い値段で売られていたんです。そんなうんち問屋があったって話です。


4 『人類の自己家畜化と現代』 尾本惠市編著(人文書院)
アレルギーを抑えている回虫、ウィルス、細菌。そういうものをことごとく排除している『きれい社会』がアレルギーを作ったという研究をしてきましたが、免疫が全体的に落ちている。がんも免疫ですし、風邪引かないのも免疫ですし。心の問題、生きる力も関係してくる。そういったきれい社会は、自分自身を家畜化してるんじゃないかということで、尾本先生を中心として研究会を作りました。その記録がこれ。われわれは自分で家畜化に導いているんじゃないか、ちいさな家畜小屋を与えられて、コンビニ食を与えられて・・・。この家畜小屋に住んでいるのがいまの若い人たち。本当に弱くなっています。少子化は、単純に女の人を働きやすい環境におけばいいという問題じゃないと思います。生きる力がすごく弱くなっている。


5 『自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝』 レスリー・デンディ, メル・ボーリング(紀伊國屋書店)
研究も、自分の体でやるくらいの気持ちを持たなきゃいけないと思っているんですけど、そんな人たちの記録です。私のことも書いてあります(注:先生はかつて自分のおなかの中に『キヨミちゃん』というサナダムシを飼っていた)。とくに寄生虫なんかはね、自分の体で研究しないとわからないんですよ。人のサナダムシを犬にかけたって大人にならない。人の体でしか大人にならない。でも動物のサナダムシを人のおなかに入れるとものすごく悪さするんです。こういうのは実験動物ではできないんですよ。だからどうしても自分でやっちゃうんですけどね。


藤田紘一郎医師プロフィール:
1939年、中国・旧満州生まれ。東京医科歯科大学医学部を卒業後、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。医学博士。テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授東京医科歯科大学大学院教授を経て、現在人間総合科学大学教授、東京医科歯科大学名誉教授。主な著書に、『笑うカイチュウ』『恋する寄生虫』『清潔はビョーキだ』など。









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