“風のひと土のひと”

色平 哲郎先生


若い医療人にぜひ、読んでいただきたい本のご紹介ということですね。今回挙げさせていただくのは、私自身が著者と面識があり、その内容について直接お話をしたことがあるもの、から選ぶことにしました。

1 『若月俊一の遺言 農村医療の原点』 若月俊一(家の光協会)
さて、1冊目、何と言ってもこの方をまず先に挙げないこと には、信州で医者はやっていけない(笑)。若月俊一先生の最後の著書です。いわずと知れた農村医学のバイブル。地域医療に携わる人にはぜひ読んでもらいたいですね。


2 加藤周一著作集 第23巻  現代日本私註 『羊の歌その後』 加藤周一(平凡社)
著者の加藤さんと軽井沢でお目にかかったときの印象は、優しい方だなあ、というものでした。前半生医師でもあった加藤さんが『みんなのものである医療を権威づけや金もうけに使ってはいけない』と常々語っていた姿を思い起こします。日本の医療が今後どうなっていくのか、彼を手本にしながら見据えていきたいものです。彼は自衛隊の海外での武力行使に反対し、『9条の会』を設立した反戦の歴史家です。その加藤周一さんが昨年08年12月5日に89歳で亡くなりました。知識人の定義を、『仕事の社会への影響、歴史的な意味を問い始めることで知識人になる』と、サルトルを引用されていた方でした。まさに知識人の鏡、心からご冥福をお祈りいたします。文学、芸術から、社会、政治論にまで及ぶ幅広い見識を持つ戦後日本を代表する知識人といえる彼の著作、1冊は読んでおきたいものです。


3 『ヘルプマン!』 くさか里樹(講談社)
次、実は、今回一番皆さんに推薦したいのはこの本です。コミックなんですが、くさか 里樹著『ヘルプマン!』。テーマは介護。介護という深刻な話題をコミックにしてしまったところが面白い。コミックを読んで社会を知る。しかも介護は医療の枠外ではあろうが延長線上にある世界、ですから、若い医療者にはぜひ、読んでおいてもらいたいですね。特に、シリーズの第8巻がお薦めです!認知症の老母を押しつけられた壮年期の男性が家族と共に介護に奮闘する。万策尽きて途方に暮れた末、介護ヘルパーを頼むのだが、現れたのはフィリピン人の女性ヘルパー。楽天的で面倒見がよいが、反面、文化の違いから周囲との間に軋轢を生じてしまう。今後ますます”高貴”高齢者が増える日本の将来、当然のように予想される場面といえましょう。フィリピンを通して我々日本人の家族、家庭を知る。これは本当にいい本ですよ〜。


4 『二兎を得る経済学』 神野直彦(講談社)
次、4冊目は、元東大経済学部長 神野直彦教授の『二兎を得る経済学』です。これは経済学というよりは財政学についての本です。21世紀の医療者にとって、財政学はますます重要です。この本はとても分かりやすく経済・財政について書かれてあって、元気が出ますよ、お薦めです。


5 『Where There Is No Doctor』David Werner(Macmillan Education)
5冊目は洋書です。『Where There Is No Doctor』。プライマリー・ヘルス・ケア(プライマリー・ケアとは、まったく違いますよ!)の世界的な教科書です。文字の読めない人であっても、イラストを見れば処方や治療法がわかるように書かれていて、『医師のいないところ』での実践医療のためのガイドブックとしてホントに世界中で利用されています。これを中学生の教科書に使えば、英語を勉強することがもっと楽しくなるんじゃないでしょうか。ちなみにこの本、医学生さん方に翻訳いただき私のH.P.に載せていますから、ぜひ、ご利用ください。
http://www.hinocatv.ne.jp/~micc/Iro/01IroCover.htm


6 『後藤新平 日本の羅針盤となった男』 山岡淳一郎(草思社)
後藤新平も、前半生、医者だったんですよ。明治初年、板垣退助が刺された時、一番に岐阜の演説会場に駆けつけたのは彼でした。明治の医者はこんなに面白い(何が面白いかは読まなければ分からないでしょうけど)。簡単にいうと、近代日本が抱える矛盾を一身に背負った人物、それが後藤新平です。若い人に彼の生き方を読んでもらって、ぜひ、感想を伺いたいですね。あの時代だからこそこんな天才的な豪傑が生まれるんでしょうけど、とにかくすごい人すごすぎる人です。現代の医療人も彼から学ぶことが多いはずですよ。私は、後藤新平さんのお孫さんと親しくしておりますが、ご存知でしょうか、鶴見俊輔さんという方です。


まだまだ、たくさん紹介したい本はありますし、映画も見てほしいですね。ぜひ、次の機会に紹介させてください。


色平哲郎医師プロフィール:
1960年、横浜市生まれ。東大理科一類を中退し、アジアなど世界を放浪後、京大医学部へ。長野県南牧村野辺山へき地診療所長、南相木村診療所長を経て、現在は佐久総合病院 地域医療部 地域ケア科医師。著書に『大往生の条件』など。









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