“平成の赤ひげ”

鎌田實医師

 学生や若い医師が読むべき本の紹介をしろと言われたが、ストレートに紹介するのは多少の抵抗感がある。なぜなら、同じ本でも人によって感じ方や解釈は違うし、同じ人が読んでも読む時期や精神状態によっても違ってくるから。ただ、一般論として、医療者が読んでおくべき本を5冊用意した。中には写真集や詩集、絵本を入れたのだが、それは若い医療人に“隙間”を大切にして欲しいと思うからだ。その“隙間”によって想像力と共感力が生まれる。医学書だけ勉強していたのでは駄目だ。




1 『メメント・モリ』 藤原新也 (情報センター出版局)
この本の写真を初めて見た時は衝撃を受けた。人間の死体を2匹の野良犬が食って
いる。そんな写真を見て君たちはどう思うだろうか。凄惨な、あるいは残酷な印象を受けるだろう。しかし、その写真の下にたった1行、言葉がある。「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ。」病院で薬漬けになって、何本も管を刺されたまま死ぬことを想うと、死というものは多様でよいのではないかと思う。そしてそれは同時に生の多様化を認めることにもなるのだ。




2 『カラマゾフの兄弟(上・中・下)』 ドストエフスキー (新潮文庫)
18歳の時に初めて読んだ。その後何度も読み返している。物語の最初の方は理屈が 多く、難渋な部分もあるので、本を読み慣れていない人は、下巻だけを読むのもよい だろう。また、最近新訳が出たのでそれなら読みやすいはず。この本を読んで感じる ことは、人間は誰でも心の中にケダモノを飼っていて、それを暴れさせないように大人達が色々な仕掛け ---- 教育であったり、宗教であったり ----- を作っているってこと。この本には人間のあらゆる本姓が描かれており、それをコントールすることの意味とその難しさが見事に表現されている。


3 『だいじょうぶ だいじょうぶ』 いとうひろし (講談社)
これは絵本なのだけど、柳田邦夫が言うように絵本には力がある。それは恐らく先
に述べた“隙間”の持つ力であろう。どれだけ多くの患者が、「だいじょうぶ」と言ってもらい救われているか。この「だいじょうぶ」という言葉にも不思議な力がある。患者は共感してもらうと心を開く。医療者として患者の心を開き、患者を支えていかねばならない。




4 『田村隆一全詩集』 田村隆一 (思想社)
詩も音楽も同じだが、多くの“隙間”を持つ素材として、想像力を養うには有効な
媒体である。中には解釈の難しいものもあるが自分流に読めればいいんじゃないか。好きな詩の2つや3つは持っておきたい。




5 『どくとるマンボウ航海記』他 北杜夫(新潮文庫)
父である斎藤茂吉は医師でもあり、北杜夫自身もそして兄も医師という医家の出で ある。彼の作品は大きく2種類に分類されると思うが、シリアスな『楡家の人々』や 『夜と霧の隅で』などもよいが、軽いタッチで、好奇心をくすぐる『どくとるマンボ ウ』シリーズが好きだ。医師も科学者も多くは好奇心によって新しい知識や考え方を 身につけていくのだ。



その他
『城塞』 A.J.クローニン --- 絶版
作者自身が医師でもあったため、医師としてのやりがいも苦悩もリアリティーを持って語られている。18歳の時に読み、これによって“不退転の決意”をしたと言える。分かりやすい話だし、いい医師とは何かを考えるのによい題材。

映画
僕は映画も大好きだ。最近見た物では『約束の旅路』(Lattice 2007で推薦していたので感動!:七沢)。自分の出生を偽り、イスラエルに亡命したエチオピア人の少年が、医師となって母親を捜し、自分自身のアイデンティを回復する物語だ。必見。

鎌田實医師プロフィール:
JFC:日本チェルノブイリ連帯基金、JIM-NET:日本イラクメディカルネットワークを通して、ロシアとイラクの恵まれない子どもたちの支援を行っている。また、『がんばらない』というレコードレーベルを作り、子どもたちに送る薬の資金源にしている。第1弾として「ひまわり」、第2弾として「おむすび」というCDを製作し販売中である。









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